ホンダ・N-BOX 試乗レビュー









エンジンは可変バルブタイミングリフト機構、いわゆるVTECが自然吸気には搭載されたので、高回転側の伸びが良くなったのではないかと予想していたのだが、違いはほんのわずかなものだった。パワー感が向上したというよりも、エンジンのふけ上りが良くなったという印象で、アクセル操作に合わせて、リニアにエンジンが反応する。最近は、軽自動車でも、エンジンフィールはかなり改善されてきたとはいえ、ここまでの感覚を、軽自動車の3気筒で味わえるのは、ホンダだけだろう。先代のエンジンもとても優秀だったため、違いをあまり体感することはできないが「エンジンのホンダ」はいまだに健在であるということはよくわかる。これに、スズキのエネチャージや、マイルドハイブリッドのように、低速時のトルクを補うような装置があれば、パワー感、トルク感としては、ほぼ完ぺきになるだろう。振動については全くと言っていいほど伝わってこず、エンジン音も、先代のエヌボックスと比較すると、小さくなったと言えるが、前のエヌボックスが、スーパーハイトワゴンとしては、とてもうるさい部類だったので、ようやく足並みがそろったという感じ。トランスミッションであるCVTは、アクセルに対するレスポンスよく、体感的にも、効率よくエンジンのトルクを地面に伝えている感覚があり、軽自動車のものと考えれば、充分優秀な部類だ。ただ、ダイハツやスズキのCVTと比較して、エンジンの高回転側を積極的に使おうとする制御がなされているため、少しアクセルを踏んだつもりでも、一気に4000回転くらいまでふけ上り、それに伴ってエンジン音の侵入も許してしまっている。高回転の伸びが気持ちのいいホンダエンジンだからこその制御かもしれないし、伸びなければ伸びないで、また文句をつけるところではあるのだが、気になる人は、アクセル操作に気を使ってしまうかもしれない。

以上、パワートレインやドライブトレインについては、確かに細かく言えば注文を言いたくなるところもあるものの、軽自動車としてはナンバーワンに近い出来と言える。しかしながら、エンジンやトランスミッションについては、先代でもかなり優秀であったため、個人的には取り回しや、ボディー、シャシー、サスペンションなどの足回りについて、先代と比較して進化したのか否かという点が気になるところである。
先代の最大の欠点だと感じていた、視界の悪さについては、残念ながらあまり改善されていなかった。シートポイントをかなり上にしたり、腰を浮かさなければ、ボンネット下の見切りが良くならないし、相変わらず、交差点で先頭になった時は信号が見づらい。しかも、交差点で左折するときに、巻き込み確認をしようとしたときは、Bピラーが非常に邪魔。前側のドアの幅が狭いため、巻き込み確認をしたい場所に、ちょうどピラーがかぶっている。また、デイズルークスやウェイク、スペーシアでは、気にも留めないような、側面下側の死角が非常に多く、巻き込み事故などを起こさないか不安になってしまう。改めて車のデザインを見てみると、先代からキープコンセプトで、着座位置が高く、デイズルークスやタントのように、大型の窓を搭載しているわけではなく、窓の縦幅は意外と狭いことに気づく。この部分のデザインを変えてしまうと、エヌボックスらしさがなくなってしまう上に、着座感覚なども完全に変わってしまうため、従来からのユーザーへのロイヤリティを考えたら、フロントウィンドウの寸法は、大きく変えることはできなかったのだろうと思うが、対策されるであろうと思っていたところが手つかずだったのはショックだった。
ハンドリングについても、特段進化は見られなかった。ホンダの、普通車の足回りは、若干時代遅れであるとは感じるものの、どこか嫌いになれない独特の味があると感じるのだが、これが軽自動車になると、ダイハツやスズキに対して、レベルが低いと感じてしまう点は否定できない。特にも、反則的な軽さを誇っている、スズキのスペーシアと比較してしまうと、ハンドル操作に対して、車の反応に遅れを感じる。車がロールした際の、シャシーのねじれも大きいと感じるうえに、重量の違い以上に、車のヨー慣性モーメントも大きい。スペーシアのハンドリングは、スーパーハイトワゴンの中では、最も優れていると感じているのだが、東京モーターショーでは、次期型のスペーシアが発表されたため、さらなる進化が期待できる。そうなれば、エヌボックスとの差が、さらに広がってしまうことになると思う。各社とも、スズキのハンドリングについては、見習ってほしいと感じるところではあるが、スペーシアの販売台数と比較して、エヌボックスがかなり成功しているということも考えれば、ホンダの開発者にとって、スペーシアはもはや眼中に無い、無視してもいいとされる存在になってしまっているのかもしれない。
高速域でのスタビリティーについては、先代と比較して向上していた。先代では、高速道路の追い越し車線ペースに合わせていると、サスペンションの懐が小さかったためか、小さな突き上げで車が姿勢を乱し、車体もぶるぶると震えていたため、あまり長い間、スピードをだしつづけようという気持ちにはならなかった。しかし今回の新型ではシャシーの剛性が若干上がっており、それ以上に車輪の設置感も増えていた。橋脚のつなぎ目のような場所でも、以前のモデルと比べると、揺れをよくいなしているうえに、ボディーに響く振動も低減されている。日本の高速道路がちょうどいいと感じる程度には、レベルアップしていた。
先代のN-BOXと比較して、最も進化した点はどこかと言われたら、私なら、乗り心地であると答えるだろう。先代と比較して、ハーシュネスが非常に小さくなっており、路面に大きな凹凸があっても、軽自動車としては苦痛さがかなり小さい部類であると言える。先代では、わずかな揺れを粒立て床に伝えてきてしまっている印象で、しかもスライドドアなどの取付剛性も甘く、常に車全体がガタピシ言っているような印象があったのだが、現行では、少なくとも4000キロ程度の走行距離であれば、内装部品やドアの取付剛性が甘いと感じることはない。そういった点も、体感的な乗り心地の良さに貢献しているものと思われる。ただそれだけに、バケットのようにへこみを持たせたベンチシートの出来は良いとは感じず、先代と同様、乗っているうちに腰が痛くなってきてしまうというのはあまり感心しない。スーパーハイトワゴン全体で見てみると、やはりスペーシアには、まだまだ乗り心地で勝てていないと感じる。概して言って、特にファミリーカークラスであれば、ハンドリングのいい車は乗り心地も良いものが多い。

新型N-BOXに乗った際、私にとっての関心事は大きく2つだった。一つは先代と比較してどれほど進化したのか、そしてもう一つは乗り心地やドライバビリティーが、スーパハイトワゴンではナンバーワンだった、スズキのスペーシアと比較して、優位に立てたのかということだ。乗り心地の改善を筆頭に、全体的なブラッシュアップが図られていたとは感じるものの、少なくとも走りについては、最新だからといって最良だというわけではないようだ。特にもハンドリング、剛性感、乗り心地に関しては現行のスーパーハイトワゴンの中で最も優れているのはスペーシアだという認識に変化は生じなかった。とはいえ、やはり売れているだけのことはあり、美点も数多くある。自然吸気でも力強い走りが得られる点や、速度調整のしやすいトランスミッションは、スズキの車では得難いし、ヨーロピアンテイストの全面デザインは、秀逸だと思う。ハンドリングやボディー、シャシーの剛性に、あるいは軽量化に対して、もうすこしリソースを割いてほしいと考える、私のような人間は、少数派であるからこそ、スペーシアよりもN-BOXが売れているのだろう。
(この記事は、新型スペーシア発売前に書いたものです)
詳しい解説はこちらをごらんください!
https://www.youtube.com/watch?v=j5BUnBqPfA0&index=123&list=PLw0Odm5d5QLYSGkODlZom00J37El1FU-t

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