ダイハツ・ムーヴキャンバス 試乗レビュー









視界については、右斜め前がみづいらのが辛い。交差点の右折では、歩行者の存在が確認しづらい。Aピラーに窓がついているものの、それでも死角は多い。シートポジション高めにし、運転に苦手意識のある女性に対してアピールしてはいるものの、詰めの甘さは感じてしまう。
走り出しはあまり元気とは言えないかもしれない。重量は930kgと、軽自動車にしては確かに重いが、スーパーハイトワゴンというくくりの中では軽い方である。従って、もう少しキビキビとした加速感を期待していたのだが、感覚的に低回転トルクの厚いダイハツ製エンジンをもってしても、気づけばアクセルベタ踏みにしているということがよくあった。交通の流れについていけないというほどではないが、山道では多少イライラすることがあるかもしれない。エンジン音は条件が良い時は静かだが、少しでも加速しているときや、わずかな上り坂に差し掛かった時、減速している時などは、かなり音が侵入してくる印象がある。ムーヴでは静粛性にはかなりこだわっているようで、軽自動車としてはとても静かな車だと感心したものだが、キャンバスは正直もう一歩だ。アイドリングストップのマナーについては、現在の軽自動車の中では標準レベルと言ったところ。再始動は早いし、エンジン停止もなだらかに行われるが、始動した瞬間に車がすこしだけ前後にギクシャクする。
トランスミッションであるCVTも、こころなしか、ラバーバンドフィールが、ほんの少しだけ他のダイハツ車よりも大きい気がした。ダイハツの車というのは、低回転トルクが太く、CVTでもダイレクト感があり、パワートレインやドライブトレインの完成度にはいつも感心させられていたのだが、なぜかキャンバスではそれがあまり感じられなかった。それでいて、ベルトのノイズについては、ダイハツの例によって大きく、煮詰めが足りのないのではないかと思わざるを得ない。
乗り心地については、キュートで柔らかい見た目に反して、路面からの突き上げをかなり感じる。とてもマイルドで、かつフラットライドであったムーヴとは完全にレベルがかけ離れており、同じ名前を冠しているとは到底思えない。足はよく動いている感覚があるのだが、同時に突き返す動きも大きいため、揺れの動き出しはマイルドなのだが、揺れの絶対量がとにかく大き過ぎる。また、路面の凹凸に対して、サスペンションはしっかりと受け止めているのに対し、シャシーやボディーはそのエネルギーを受け止めきれず、車体がねじれたり、ブルブルと全体が振動を起こすこともある。揺れた時に振動するのはボディー自体だけでなく、スライドドアや内装部品も同じで、センターメーターの上の部分のひさしのようになっている場所が、つねにブルブルと縦揺れを起こしていたのは、乗っている間ずっと気になってしまった。これよりも車高の高く、しかもピラーレスという悪条件を持って生まれたタントでは、車体にひどい振動が残ることはなかったし、内装部品の取り付け剛性もしっかししたものだったので、おしゃれ装備満載のキャンバスは、やはり工作精度や質感の面で不利だったのかと思ってしまう。比較的なだらかな路面でも、車輪からはつねにゴロゴロ感が伝わってくるため、全体としても、あまり快適な移動空間とは言えない。風切り音はあまり気にならななかったが、ロードノイズは低周波音が非常に大きい。
ビシバシと揺れを伝えてくる足回りから想像するよりも、ロールはかなり大きく出てしまう。ブレーキングしながらハンドルを切ると、外側前輪にとんでもない負荷がかかっていることがわかるし、車全体がヨタッと向きを変え、腰砕けになるタイミングも早い。ハンドルには前輪のインフォメーションが無く、そのくせ轍や水たまりなどでハンドルは非常によくとられる。ハンドルセンターの甘さは、軽自動車としては標準レベルだともうが、ムーヴではもっと4輪の接地を感じながらコーナリングすることができた。フロントヘビーな印象を常に感じとり、ハンドルを切るたびにヨー慣性モーメントに振られ続ける印象であった。正直、6代目のムーブと同じ、優秀なDモノコックを使っているとは思えない。
高速域でのスタビリティーについては存外に良いと感じた。トヨタグループの車には時々見られる現象なのだが、ボディー剛性やハンドリングがあまり良くない車でも、ひとたび高速道路に持っていくと、高い安定性を発揮するというのは、やはりなにか特別な味付けを行なっているに違いない。全体的に緩いと感じさせながらも、緩いなりに安心感をもって高速道路を走ることができた。きつい上り坂などのように、エンジン性能的な制約がない場合であれば、追越車線のペースに充分ついていくことができる。

昨年、ムーヴに乗った際、乗り心地やドライバビリティのレベルがあまりに高く、ダイハツの本気は恐ろしいと思った。タントは流石に背の高さや重量、スライドドアなどによって、ムーヴほどではなくなってしまっているものの、それでもなかなかの完成度だと思った。今回乗車したキャンバスはどうかと言えば、私がムーヴという名前に引っ張られ過ぎていたという点をさし引いても、ちょっと見た目にリソースを割き過ぎたのではないかというのが率直な印象だ。ただ、その見た目に関しても、内装はラパンの二番煎じ感が否めないし、ラパンほどこだわりがあるわけでも無く、詰めの甘さのような部分も感じる。結局、ダイハツの中で、乗り心地にこだわりたいという人は、ムーヴを選ぶべきだし、使い勝手にこだわりたいという人は、タントを選ぶべきで、キャンバスはダイハツとしても、すこし勇み足で開発し過ぎたような印象がある。
この車を買う人は、どんな人だろうかと、運転しながらぼんやり考えてみた。性別は、まず間違いなく女性だろう。しかし、私の経験上、20代の女性で、ラパンやキャンバス、パッソモーダのような、あきらかに女性向けの車を欲しがっている人は、一人もいなかったように思う。自分で車を運転したい、若い女性たちは、デミオやXVCHRやヴェゼルのような、割といかつい車を欲しがっている人が多いというのが、私の肌感覚ではある。近年の若い女性は自立心が強く、特にも車を自分で購入し、自分で運転するという人は、可愛らしさよりもむしろ、スタイリッシュさや力強さで自分を表現したい気持ちが強いように感じる。ラパンやキャンバスは、20代あたりの女性がターゲットと思われがちだが、実は30代40代あたりが最も大きなボリュームゾーンで、女性たちの指向の変化が伺える。別に私は、可愛らしい車が、この世に存在しても良いと思う。ルノーのトゥインゴや、フィアットのチンクエチェントなどは、その分野でのブランドを確立している。しかしながら、可愛さや便利さだけではない、内に秘めたる素性の良さや、質感の高さ、操る楽しさなど、特に秀でた何かを持っていなければ、現代の自立し、目の肥えた女性たちを満足させることはできないのではないかと思う。


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https://www.youtube.com/watch?v=-2kZzSxz9YU&index=9&list=PLw0Odm5d5QLbWebBFxdj0a6GO2UjNbXx7

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