いすゞ・エルフ 試乗レビュー







エンジンは3Lにダウンサイズされていたが、4300ccのタイタンと比較してトルクの低下は感じられなかった。むしろシリンダーが小さくなった恩恵か、高回転側の伸びがよくなっており、2800回転あたりからトルク落ち気味になっては来るものの、レッドゾーンまで比較的のびやかとさえ言ってもよい。比較的排気量の大きいディーゼルエンジンとしては、まずまずのフィーリングで、2tトラックということを考えても、充分なトルクとパワーを持っている。エンジンの振動は、走り出してしまえば気にならないが、停車中はキャビンや座席がぶるぶると震えており、気になるといえば気になる。
トランスミッションは5速のMTで、当然ながら、よっぽどのことがない限り、2速発進をすることになる。以前乗ったタイタンでは、シフトパターンが乗用車のように、リバースが左下に来ていたため、セカンド発進した後の最初のギアチェンジで、3速に入れるのに時間がかかってしまうことがあったが、いすゞはそこらへんもしっかり考えているようで、リバースが左上に来ている。したがって、発進直後のギアチェンジは、ストレートの位置で操作できるため、10年前のタイタンよりも、感覚的にきびきびと発進ができる気がする。シフトのストロークは乗用車と比較したら当然大きいが、少し前の2トン車と比較するとやはり小さくなっており、普段乗用車のシフト操作を行っている人でも、ギリギリ違和感なく操作できるレベル。以前タイタンに乗ったときは、その直後に自分の車に乗ると、シフトのストロークが短いことに、とても違和感があるほどロングストロークであったのだが、今回のエルフの後は特に違和感がなかった。ショートストローク化の代償か、シフトの入りは固くなっており、冷感始動直後は勢いをつけなければならないほど入りづらいと感じたが、節度感はあり、初めて乗った車だったものの、シフトミスをすることはなかった。新しい車で、まだ走行距離は3万キロ程度だったので、公平な判断はできないとは思うが、クラッチについては滑るようなこともなく、ダブルクラッチ操作が必要になる場面も特になかったので、普通に扱える、トラックのものとしては優秀なクラッチであると言ってもいいだろう。
ブレーキ性能については、あまり検証できなかったが、ABSは優秀であると感じた。前後バランスの悪い車であるにもかかわらず、前後輪の状況を素早く察知し、適切に制動力が配分されており、摩擦係数の低い路面でも、安心してブレーキが踏めた。ABSが作動したときの、ガガガガという機械音も小さく、意図したものなのか、偶然なのかはおいておくとしても、電子制御の質感が、乗用車の平均レベルよりも高い点には驚かされた。一方で後輪駆動でなにも積載していない場合、トラクションは非常に低い。乗用車ならなんともないような雪道の勾配で、スタックしそうになることがあった。積雪がある場合は、必ずチェーンをはかなければならないだろうし、雨の日なども慎重に発進する必要があると感じた。ただ、タイタンと比較すると、やはりシャシーの剛性が向上しているためか、発進時のトラクションも若干ながら改善されている。
乗り心地に関しては10年前のタイタンとほとんど同じだった。つまり、かなり固めで、苦痛さを伴うものである。幹線国道や高速道路など、比較的速度が出ているときに、路面に凹凸があった場合、苦痛さのあまり声を出してしまうほど乗り心地は悪い。座席もそこまでクッションが厚くないため、5時間程度乗車したあたりから、お尻が痛くなってしまった。サスペンションは、積載時を想定しているため、それほど荷物を積んでいないときは固くなってしまうというのは当然理解できるが、やはりトラック特有の、シャシーのたわみから発生する、前後のぎくしゃく感も恐怖をあおる。昨年乗った、ワイドキャブのダイナの車載車は、ここまで乗り心地が固いわけではなかったため、この差はメーカーの差なのか、単純に車の大きさからくるものなのか、公平を期すために、2t積みのダイナにも乗って検証してみたいと思う。
ハンドリングについては、スペース効率重視のキャブオーバスタイルの車に、タイアの接地感、あるいはレスポンスの良さを求めてはいけないし、耐久性が求められるトラックに、シャシーの剛性感だけを求めるのはそもそも間違いだ。それでもあえて評価するとしたら、やはり10年前のタイタンと比較しても、思い切ってハンドルを切れるようにはなっている。後輪の接地感を出すことは、構造上無理であるとしても、前輪から感じる安心感は多少向上しているし、ロールもそれなりに自然にはなってきた。ハンドルセンターは甘く、つねにハンドルを右へ左へ操作していないと、車の直進性を保てないのだが、ここら辺もほかのメーカーではどれほどのレベルになっているのか、見当もつかないので、よいとも悪いとも言えない。
10年前のタイタンと比較しても唯一、はっきりとこのエルフが負けているといえる点は、走行中のキャビン内の騒音であろう。エンジン音はそれほど大きくないのだが、ロードノイズ、というよりも、高周波のパターンノイズが雨除けの中で共振し、ほんの少しだけ耳障りに感じた。今回はたまたま、タイタンに乗った時と全く同じタイアを装着していたため、これに関してはほとんどイコールコンディションであるといえるのだが、いかにタイタンは静粛性にこだわっていたのかということがうかがえる。そうはいっても、エルフが特段うるさいというわけではなく、あくまでかなり神経質に見た場合ということであるため、こと静粛性という観点から言えば、タイタンが恐るべき存在であるというだけのことだろう。
高速域でのスタビリティーに関しては、これもまたシャシーの剛性が上がっているということに加え、キャビンとシャシーの一体感が増しているため、10年前のタイタンと比べると進化したとはいえる。とはいえ、おそらく普通の人であれば、高速道路では時速100キロでの走行が、精神的に限界といえるだろう。今回は夜の高速道路で、荒れた路面が突然出現し、まるでスーパーファミコンのマリオカートのように、車がはねて、勝手に向きを変えてしまったのは、2017年で一番怖い体験だった。東北自動車道の試験区間のように、110キロで走ることのできる区間でも、実際に110キロで走るのは危険かもしれない。

現在発売されている乗用車においては、もはや時速100キロや110キロ程度で恐怖を感じる車というのはほとんど存在せず、日本の高速道路がいまだに基本的には100キロ制限というのはおかしなことだというのは、私が常々感じていることだ。一方でやはりトラックについては技術的に難しい面もあり、確かに10年前のタイタンと比べて、エルフの進化は大筋で認めることはできるものの、ハンドリングや乗り心地、そしてなによりスタビリティの面では、さらなる進化が求められる。トラックの運転手不足が叫ばれて久しいが、トラック自体の性能を高め、労働安全性や快適性を高めることは、人手不足にとって多少なりとも有効であるように感じられる。また、トヨタや日野、三菱日産といった他メーカーの小型トラックは、どのようなレベルにあるのかについても、今まで以上に気になるところである。


遡行距離394km 給油量40.2L 今回燃費9.8km/L

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